気候危機 II 崩壊ふたたび

Salt Creek Falls by Andrew Coelho on unsplash.com

水や食べ物、住まい、エネルギーなどの生活必需品が不足し、「通常運転」がもはやできず社会の基底がくずれることを「崩壊」と呼ぶ。

近年フランスでは Pablo Servigne らの崩壊学の本がベスト・セラーとなり、この酷なゆく末をわが子にどうやって説明すればいいのかと泣いて相談する若い母親や、アメリカでは優秀な学生が退学し、手に職をつけて活路を見いだす人たちもいるようだ。その「崩壊」をテーマに映像化した日本映画に『サバイバルファミリー』(2017年公開)がある。

わが街ルクセンブルクでは、崩壊を語る人も、有事に備えるために農業を営む知友も増えてきた気はするが、日本と同様、一般的に危機意識は低い。さながら「12月23日の七面鳥」感がある。(エサもねぐらも申し分なく、まさか、あくる日に丸焼きになるとは夢にも思ってない様子)

だが社会崩壊は、歴史上の事実として存在する。ジャレド・ダイアモンド(地理学・歴史学・人類学者)は崩壊の要因として、5つ挙げている。
1)環境崩壊・資源の枯渇
2)気候変動
3)近隣国との敵対関係
4)友好国の減失
5)誤った環境対策である。

崩壊の一因として、すぐに思いあたる点がある。ルクセンブルクは2月16日にアース・オーバーシュート・デー (Earth Overshoot Day, EOD) をむかえた。CO2の吸収や自然再生にかかる一年分の予算である自然資源を、人々がEODの日までにすでに消費し、地球にかなりの負担をかけながら、「赤字」の状態で日常生活を送っていることを意味する。つまり私たちの命を維持してくれる地球環境の許容量をどの程度超えているか、環境負荷を示す目安となる。(カタールの2月11日に次いで、当国は最悪の世界第二位。ちなみに近隣国ベルギーは4月5日、ドイツは5月3日、フランスは5月14日。日本は何日?)

現に世界の石油生産量は2006年にピークに達し、減少・枯渇へと向かっている。ガソリンや軽油はもちろんのこと、日用品である歯ブラシ、歯みがき粉、注射器などのプラスティック医薬品容器、弁当箱、農薬までもが、石油をもとに作られている。原油は文明のかなめであり、代替物はない。(地球温暖化で、北極圏の永久凍土層が溶ければ油田開発に有利だともくろむ金の亡者たちには、後世の人の生き死は眼中にないのだろう。)

瓦解の要因として、流行病も考えられる。現在、ルクセンブルクでは新型コロナウイルスの感染例は報告されていない。(が、スペインのホテル封鎖のニュースで、ウイルス感染は新局面に突入したという危機感を持った。テネリフェ島の数百人宿泊できるホテルは、ルクス・エアの行楽地でもあり、ルクセンブルクからは14人の宿泊客が足止めされている。だがルクセンブルク政府なら、彼らをちゃんと迎えに行き、保険でタダ同然で治療をしてくれるだろうという期待はもてる。防災・防疫・崩壊の耐性で、国・地域差は大きいと思う。)

現在、中国・新疆ウイグル自治区では、コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために実施している政府の措置によって、飢餓が発生していると報告されている。

現行のシステムはあまりに複雑すぎて、社会の機能不全や混乱は予想しがたい。然るにこれらの現象は、これから起きるであろう辛酸/崩壊を、今われわれは前もってなめているのではないだろうか。ダイヤモンドが示すように、気候危機や自然資源の減失、経済困窮、コロナウイルスの世界的な流行、政府の危機管理のまずさ・失政など、さまざまな案件が重なりドミノ現象が波及するのではないかと、私は危惧している。

最後に、これから気候危機を生きる私達には、先の気候危機 Iブログのジャーナリスト、ダー・ジャメイルさんのような勇敢で正確性のあるジャーナリストの仕事がより一層求められるだろう。イラク戦争でファルージャの死闘を報じたこの従軍記者は、時々刻々と変わる状況を書きあげても、その記事が発行される頃には、すでに事態は変わり時勢遅れになるくらいであったという。

崩壊はコロナウイルスのように、急激に広範にわたり不足の事態として展開すると思われる。温暖化の懐疑論が流布する日本では、原発事故の時のように「何が嘘で、何が真実か」を見きわめるために、メディアや書物のリテラシーが不可欠になると思う。

追記 2020年02月12日のBBCニュースによると、「アマゾン熱帯雨林の最大5分の1で、二酸化炭素(CO2)排出量が吸収量を上回っていることが、最新の研究で明らかになった。」 (see アマゾンのCO2、排出が吸収を上回る ブラジル研究者が計測、2020年02月12日)

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